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40話 秋光の祈り

Penulis: 白蛇
last update Terakhir Diperbarui: 2025-12-04 17:02:33
 風が低く鳴っていた。夜明けの光はまだ地に届かず、洞の天蓋の裂け目から薄く雪が降りてくる。

 瑞礼は洞の縁の岩に積もる雪を見つめながら、凍えた息を吐いた。白い吐息が夜気にほどけ、雪片はひとひらごとにかすかな光を帯びて、音も立てずに地へ吸い込まれてゆく。

 火床の火はとうに消え、灰が沈んでいた。瑞礼は手を伸ばし、指先で残り火を寄せる。けれども、ぬくもりはもうほとんどなかった。

 いつもなら、まだ眠っている時間。けれど――その朝はなぜか胸騒ぎがした。夢の底で太鼓の音を聞いた気がする。遠く、雲の下で鳴っているような、くぐもった響き。

 祭祀の記憶を呼び起こすその音が、まだ耳の奥に残っていた。

 その時、湖の方で何かが砕ける音が響いた。鈍く、骨の内側まで響くような衝突音。

 ――グシャリ。

 それは、水音と言うにはあまりに重く、湿った衝突音だった。何かが氷を砕き、その下の水面を叩きつけたのだ。

 瑞礼は弾かれたように顔を上げた。

 洞の空気が震えている。ただの氷柱が落ちた音ではない。「肉」と「骨」を持った何かが、高みから叩きつけられた音だ。

 嫌な予感が背筋を駆け上がる。瑞礼は無我夢中で湖へ駆け出した。足元の雪は深く、踏み出すたびに軋む。息が荒くなり、喉が痛む。

 それでも足を止められなかった。胸の奥のざわめきが、理由もなく彼を急かしていた。

 湖の中央近く、氷膜が軋み、鈍い音を立てて割れている。白い霧の奥から、暗い影がゆっくりと浮かび上がった。

 それは最初、ただの木か獣の影のように見えた。けれど、水面を撫でた風がその形をめくると、淡い布が揺れ、肌の色と広がる赤が覗いた。

 瑞礼は足を止め、次の瞬間、氷の方へと身を乗り出した。薄い膜がひびを広げ、きぃ、と乾いた音を立てる。

 それでも構わず進んだ。揺れる氷に足を取られながら、裂けた縁に膝をつく。息が白く弾け、肺が焼けるように痛んだ。

 それは――若い女だった。手は何も握らず、胸の前で固く組み合わされている。薄衣の裾は水とともに凍りつき、髪は湖水の冷たい指に絡め取られていた。唇は紫に染まり、まつげには細かな氷の粒が雪のように白く積もっている。

 あまりに静かな顔だった。祈りの途中で眠りに落ちたのかと錯覚するほどに。

 瑞礼は女の袖を掴み、必死で氷の上に引き揚げる。滑る布を何度も掴み損ね、そのたびに指が裂けた。手のひらを染める
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